金メダリストからのオファー。
迷いはなかった。
高校4冠を携えて、彼は2年前、東京国際大学の門をくぐった。

オリンピックのメダリストを育てたい。
2020年東京五輪開催決定を受け、東京国際大学に新設されたウエイトリフティング部の監督に就任した三宅義信氏。
そのビジョン実現のために白羽の矢が立てられたのが、当時高校2年生だった宮本昌典選手である。

レスリング選手だった父・裕二氏のDNAを受け継いだ… はずだった。
ところが、幼き日に始めたレスリングは連敗の日々。
彼の性格上、対戦相手に攻め入ることがどうしてもできなかった。
そんなわが子の姿に心を痛めた父は、彼をウエイトリフティング教室へ通わせることにした。
父のこの決断が、日本男子ウエイト界にニューヒーローを誕生させることとなった。

指導に当たったのは、沖縄工業高校の平良真理先生である。
オリンピアンの平良先生は、彼にとって憧れの存在。
小学6年生の小さな心は躍った。
平良先生の指導の下で成長していった彼は、中学記録、高校記録を次々と塗り替えて行く。

そして2015年の春、高校チャンピオンは、万全の受け入れ態勢で東京国際大学に迎え入れられた。

故郷を離れ、埼玉で暮らす日々。
環境の変化や指導方法の違いに戸惑うことは誰しも経験する。
彼も決して例外ではなかった。

伸び悩む彼の記録に、遠くから心配していたのは恩師・平良先生である。
半年後に帰郷した彼は、先生のもとを訪ねた。
するとたちまち元気を取り戻し、勢いに乗ったという。

沖縄で心配していたのは、平良先生だけではない。
記録よりも、その健康を心配していた人。
母・由美子さんである。
慣れ親しんだ母の手料理も、彼の復調を後押ししたことだろう。

彼に尋ねてみた。
「大学の食事とお母さんのお料理、どっちが美味しい?」
彼はにっこり微笑んで「種類が違いますから…」と。
話の流れの中でふと出た質問だが、我ながら愚問であったと省みた。

栄養士が、アスリートのためにデータをベースに作成したメニュー。
母が、息子のために愛情をベースに作った手料理。
確かに種類は違う。
比較できないのは当然である。

埼玉での大学生活も、まもなく2年が過ぎようとしている。

現在、69キロ級のスナッチとトータルでジュニア記録・大学記録を有する彼。
「残るジャークも揃えたいね」と言う管理人に、「はい」と答え、そして彼はこう続けた。
「日本記録もです」

日本記録!?
驚いて69キロ級ジャークの日本記録を確認した。
なるほど。
手が届かない重量ではない。

昨夏、Riocentro Pavilion(リオ五輪で重量挙げ競技が行われた場所)で、三宅宏実選手の銅メダル獲得の瞬間を目の当たりにした彼。
その見つめる先は、2020年東京五輪。
さらにはその4年後の大会である。

幼き頃、嫌々やっていたというレスリングの練習。
彼のフォームのしなやかさは、その練習で培われたものである。
人生において、無駄なことなど一つもない。

中学・高校時代、平良先生からそれぞれの種目をきっちりと指導された彼。
そして大学では、三宅敏博コーチの下でパワー系の練習に力を注いでいるという。

素直な彼は100パーセント受け止めて、それを力に変換する。
直き心の故に愛されて、彼は今日、20歳の誕生日を迎えた。

育んでくれた南の島。
レスリングで負け続けた日々、慰めてくれた青い海。
ウエイトで頂点に立った日、祝福してくれた優しい風。
「沖縄が恋しい」と彼は語る。

それでも彼はきっぱりと言った。
「オリンピックを目指すなら、(大学卒業後)沖縄へは帰れません」と。

ウエイト王国の小さなプリンス。
あどけなかった少年リフターは凄まじい勢いで成長を遂げ、いつしか巣立ちの時を迎えていた。

2年前の春、那覇空港を離陸した彼は、その翼に夢を乗せて、今も大空高く飛び続けている。


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リフターとしては、決して恵まれた手ではないようである。
それでも「(糸数)陽一さんの手に似てるんです」と言ったときの彼は、少し嬉しそうだった。
糸数先輩に続き、この手で日本記録&オリンピックを目指す。

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20歳のお誕生日おめでとう♪

リフター魂88 浅田久美先生とSDC

リフター魂86 東京国際大学ウエイトリフティング部

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